憧れの人
子供の頃、特定のアイドルのファンになるなんてことはなかった。テレビの中の人を、多分ヒトとして見ていなかったのかも知れない。しかしそんな頃に、心の中で大切に想っている、憧れている人がいた。
文字の中に、頁の中に浮かび上がる彼を何度も見ようとした。姿形が見えないのに、私の中ではまさしく形ある人間だった。精一杯の努力で、架空の人物であることを認識していたのだった。とはいえ私は、いわゆるシャーロキアンではなかった。彼がいつ何をしたのかという系譜を追いかけることはしなかった。ただ彼の気配を感じたくて、ひたすら頁を繰っていたのだった。
ある時、テレビを見て驚いた。画面の中にシャーロックがいた。見まごうことなく、憧れ続けたシャーロックだった。動いている。声を発している。ジェレミー・ブレッドだった。
他の役者によるシャーロックを見たことがないのに、ジェレミー・ブレッド以外のシャーロックは考えられなくなっている。それからの私の中のシャーロックは、ジェレミー・ブレッドのシャーロックに置き換わった。置き換わったけれど、私の中では置き換わった感覚はない。より質感を持ったというだけのことだ。それだけはまり役だったのに未収録の原作のあることが残念でならない。
……ということを、ふとネットでシャーロック(勿論ジェレミー・ブレッド)を見かけて感じたので書き留めてみた。
お値段で二の足を踏んでいるんだけど、やっぱりDVD買っちゃおうかなあ……。